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バケラッタ氏来広

私に詰将棋を創るきっかけを与えてくれたバケラッタさんことS君が、呉での友だちの結婚式に出席するため、お昼過ぎの新幹線で広島にやってきた。路面電車で八丁堀まで移動し、私がたまに行くお好み焼き屋で少し遅めのお昼を食べたあと、車で呉まで送る。式が始まるまでの小一時間、ホテルのロビーにある喫茶で雑談をしてから別れた。

彼は数年前、三代宗看の遺した詰中将棋作品集「中将棊作物」の未解決問題を次々に解いた。ここしばらく熱は冷めていたようだが、最近になってまた熱心に解き始めたらしい。当初の予定では、彼が今書いている詰パラのリレー随筆の原稿の話などをすることになっていたのだが、終わってみれば、結局広島駅の改札で落ち合ってから呉市内のホテルで別れるまで、ずっと詰中将棋の手順の検討作業ばかりしていた。お好み焼き屋でも、クリアファイルに挟まれた紙に印刷された図面を二人してにらみながら、こういう会話をしていたのである。
「まず、後々邪魔駒になる鯨を捨ててから、鷹で王手するんです」
「そうか、横行(おうぎょう)で取らせれば鷲の利きが消えるわけか……でも鹿か牛で合駒できるんじゃないの?」
「いや、猪は前に利いてないから、鷹をここに回れば詰みです」
「なるほどね……で玉が逃げると?」
「ここでじっと9二象と寄るのが、渋い一手!」
「おお、ここでじっと!玄人好みの好手入りました」
すぐ横で食べていた女性は、箸をつける前に目の前のお好み焼きの写真を撮っていたから、おそらく観光客だったと思われるが、隣の会話を聞いて、果たしてどう思っていただろうか。広島という土地に対して、何か間違った印象を与えてしまったのでないことを、切に願う。

それにしても、さすがは三代宗看、どの作品にも面白いトリックが仕掛けられている。原型からの邪魔駒消去、玉方不成など、作者の主張がちゃんと入っているのである。作品を通して300年前に生まれた人間とコミュニケーションをとれる。これこそ詰将棋を解く面白さだろう。

それからもう一つ、これもバケラッタ氏と意見の一致を見たことだが、自分がまだそれほど慣れ親しんでいないルールの作品を解くという行為は、それ特有の醍醐味がある。おかしい、すべての手を検討したはずなのになぜ詰まないんだ……と逡巡すること十数分、実は禁じ手を犯していたり、王手をかけていなかったりしていて、初歩の初歩で間違っていることに突然気づく。そのときの「何やってんだ俺は……」とあきれる瞬間が、実はおかしくて仕方がないのである。これはおそらく、フェアリー作品を解いた経験のある方なら、一度は経験する面白さではないだろうか。

今日は彼と別れたあとまた別の場所に行ってみたのだが、その話はまた明日。

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