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Uの芸術

土曜日ということで、家の電子ピアノで少し指を慣らしてから、また街中へ出てグランドピアノをさわってきた。いつものようにフランス組曲のアルマンドでウォーミングアップしてから、カプースチン。それから今日は、ショパンの舟歌も久しぶりにやってみた。人前で初めて弾いたのは、大学のピアノサークルの新人演奏会だから、かれこれ13年前ということになる。だいぶ忘れてしまっていたが、何度か繰り返していたら、少しずつ指が記憶を取り戻してきた。やはりいい曲だ。

そういえば、ピアノサークルの同期だったU君が、デュオの演奏会を開くことになったようだ。普段はお役所に勤める純朴ではにかみ屋の好青年なのだが、髪を派手に赤く染めたりしていてちょっとびっくりである。同期なのに年の差を妙に感じてしまった。ともあれ、関東にお住まいの方は、行って損はないと思うので是非。

彼はサークルやその周辺においては、もはや生きた伝説となっていた。彼の演奏は、もはや「すごい」とか「素晴らしい」というありきたりの言葉では、到底表現できないようなものだった。サークルの演奏会において、U君はある時期から決まってプログラムの一番最後に配置され、聴く人は彼がどんな名演を聴かせてくれるか、そしてアンコールで何をやってくれるか、みんながわくわくしていたものである。そして彼は、常にその期待を裏切ることはなかったのだった。

彼の演奏を分かりやすく言えば、アクロバティックで人を驚愕させる超絶技巧ということになるのだろう。しかしこういうヴィルトゥオーゾの世界は、ともすれば技巧偏重・内容空疎というイメージを持たれ、最初から一段低く見られがちだ。実際、うちのピアノサークルは代々超絶的な難曲を偏愛する人間が多く、目にもとまらぬ名人芸を演奏会の度に披露していたが、その中には「見せびらかしたいだけ」と言われても仕方のないような演奏も少なくなかったのは確かである(さらには私のように、技術がないのに難曲を弾こうとする困った人も一定数いた)。しかしU君の演奏は、それよりはるか上のステージにあったと思う。彼の演奏を聴いた人は、みんなホロヴィッツやシフラを生で聴いたような気分になった。彼が私の同期であったというのは、何とも幸せなことだったと思う。

当時私はサークルの演奏会の模様をビデオ撮影で記録していたが、彼の演奏がサークルの中でだけしか知られないのはあまりにもったいないと思い、U君の演奏だけを取り出して「Uの芸術」というビデオを制作したことがある。伝え聞いた人があちこちからダビングしてほしいとメールを送ってきて、一時期はその発送作業が私の日課だった。テープが劣化しないうちにDVD化しようと思っているのだが、忙しくてまだ実現していない。しかし、これはいつかしなければいけない作業だと思っている。

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コメント

はじめまして。U氏のピアノ友達です。Saito様のお話はたびたび伺っております。
そうですね、U氏は貴重な存在だと思います。超多忙の中、演奏はもちろんのこと編曲や演出といったことまで的確にこなされていてただただビックリいたします。あれほどの方はなかなかいないと思います。Saito様が海外へ行かれている時期とのことで、大変残念です。「生」で観ていただきたかったです。第2弾はぜひ!

はじめまして、コメントありがとうございました。
ちょうどトラブルでページが見えなくなってしまって失礼しました。
演奏会、きっと素晴らしいものになることを確信しております。

デジタル化計画はいかがあいなりましたでしょ?

いやー、これがなかなか……。でもやっぱりやらなきゃいけない作業ですよね。
今ちょっと余裕がないのですが、落ち着いたら今年中には何とか、とは思っています。

人類の伝承のためにやらなくてはいけませぬぅ~!

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