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舞い上がる音、地に落ちる音

先週の土日は演奏会やら寺巡りやらで動き回っていたが、今週は特に何もない。やっぱりこういう週末がときどき入ってくれないと疲れてしまう。

午後は電子ピアノに向かっていた。先週までは演奏会で弾く曲ばかり練習していたが、もう何を譜読みして遊んでもいいわけだ。次はどうしようか、とあれこれ考えるこの時期が実は一番楽しい。途中で止まっているシャコンヌやグラナドスの「藁人形」あたりを進める手もあったが、何となくまたスクリャービンに回帰してしまった。私が最も好きな作曲家の一人である。今日やっていたのは練習曲Op.8-5とOp.8-6。どちらもスクリャービン特有の弾きにくさに満ちていて、無理をしすぎると手を痛めかねないような曲だが、聴いている分には朗らかかつ流麗で実に美しい。

確かプロコフィエフの言葉ではなかったかと思うが、「スクリャービンは音たちが舞い上がっていき、ラフマニノフはすべての音符が地に落ちる」。このイメージは弾いてみるとなおいっそう納得できる。ラフマニノフの和音は重厚で、鉄柱を地中深くまで突き立てるように振り下ろされるのであるが、スクリャービンはいつもふわふわと空中を漂っている。いや、ふらふらと言った方がいいかもしれない。焦点の定まらない目で浮遊している感じだ。Op.8の練習曲集はまだ初期の作品なのでその傾向は控えめだが、それでも萌芽は見て取れるように思う。

スクリャービンに特徴的な点として、長調短調を問わず、#系の調の曲が非常に多いということがある。Op.8では調性が#系の曲は12曲中8曲に及ぶし、それ以外にもソナタ第2,3,4,5番、練習曲Op.2-1、Op.42-5、幻想曲Op.28、詩曲Op.32-1など、彼の初期から中期にかけての主要な曲はすべて#系である(後期に入ると機能和声の世界を離脱するので、もはや調性は存在しない)。ちなみにラフマニノフは、代表曲といえるピアノ協奏曲第2,3番、ソナタ第2番などはすべて♭系の調性である。こんなことも、上に述べた音たちが飛び出す方向についてのイメージと無関係ではないだろう。

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コメント

確かにスクリャービンのソナタ4番なんか、どこまでも飛んで行きそうな感じですね。逆にラフマニノフの「鐘」は、途中華々しくても結局は沈んでいくような・・・。好みの音型による違いというのもあるかもしれませんね。

ラフマニノフは「鐘」にしてもソナタ第2番にしても、冒頭の旋律の音型は落ちていきますよね。
あの「下がる」感じが、ラフマニノフ特有の憂愁に満ちた雰囲気を作り出しているような気がします。
対照的にスクリャービンは、部分的に見ても曲全体としてみても、上昇していくように思えます。

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