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あるエンドゲームスタディができるまで

イギリスのプロブレム作家、ヒュー・ブランドフォード (Hugh Blandford, 1917-1981) が、British Chess Magazineの1968年3月号に "The Anatomy of an End-game Study" という記事を書いている。自作を例にとり、最初のアイデアから作品が完成するまでを順を追って説明しているのだが、こうやって創作過程を詳しく述べた文献というのはあまりないように思われるので、適当に訳してここで紹介してみる。詰将棋作家にとってもある程度参考になる一文なのではないかと思う。


あるエンドゲームスタディができるまで

私はこれまでずっと、アイデアが推敲によって一つの作品に昇華していくまでを段階を追って説明すれば、きっと面白いだろうし、また他の作家や作家の卵にとっても役立つのではないかと思っていた。最近創作した作品を例にとって、ここでやってみることにしよう。

ABC
Blandford-A.pngBlandford-B.pngBlandford-C.png
No white kingNo white king

A: まず簡単なところから始める。この局面で黒番なら、例えば1...Kd8 2.Ra8+とすれば白が勝てる。白番でも、1.Rb7 Kd8 2.Rb8+で白の勝ちである。ではこの局面をいじって、白番のときにさらに何手か白のRを動かすようにできるだろうか?(とりあえず、白のKは盤上にはあるが自由には動かせないと仮定しておく)

B: 全体を1列左にずらしてみると、こういう配置を得る。もし黒番ならAと同じで黒負けである。白番だとすると、1.Rb7 Kc8 2.Re7 Kd8 3.Ra7という駒さばきでテンポをかせぐことができる。これで同じ駒配置で黒番になったから、先ほどと同じく黒の負けになる。さてこれを作品にしていくためには、自由に動かせない状態で白のKを配置しなければいけない。

C: 例えばこんな配置にしておけば、白Kは端っこに封じ込められているから条件を満たしている。しかしこれでは配置が静的すぎて、白Kが指し手に関わる可能性がほぼ全くなくなってしまう。もう一度考え直そう。次の図では、白と黒がともにツークツワンクの状態にある形としてしばしば見かける、白KとPたちの配置を用いている。

DEF
Blandford-D.pngBlandford-E.pngBlandford-F.png
D: この局面も必要な条件を満たしているが、白Kと新たに置かれたPたちがお互いにツークツワンクの状態にあり、先ほどよりはオープンな配置になっている。ここで白番なら、1.Rb7 Kc8 2.Re7 Kd8 3.Ra7と進めれば勝ちだ。ではこれに適当な序をつけて、Dの局面に到達するようにできるだろうか?駒を足さずにできればその方が望ましい。

E: 図で白番として、作意は1.f6 Kd8 2.f7 Rf8 3.Ke2 b3 4.Kd3 d4 5.Rb7 Kc8 6.Re7 Kd8 7.Ra7で勝ち。しかしこの配置ではキズが2つある。(i) 白は4.Kd1 b2 5.Kc2と指すこともできる。(ii) 黒は1...Re6 2.f7 Rf6+と指すこともできる。

次ではこの欠陥に注意して作図する。

F: b列とd列にいた白KとPたちを一列右にずらすことによって、1...Re6の方はつぶせる。1.f6 Re6 2.f7 Rf6としてももはやチェックではないため、3.f8Q+ Rxf8 4.Ra8+で白は勝てるからだ。白の手の非限定に対しては、黒Pをe3に加え、白Kをg2に置く(ここなら相変わらずe3に2手で行ける)ことで解決する。作意は1.f6 Kd8 2.f7 Rf8 3.Kf3 c3 4.Kxe3 e4 5.Rb7 Kc8 6.Re7 Kd8 7.Ra7で勝ち。3.Kf1なら3...c3 4.Ke1 c2である。

もう一度Fを見てみると、最初は白のRが7段目にいない方が明らかによさそうだ。そこでこうする。

GHNo.1467 in B.C.M.,
March 1968
Blandford-G.pngBlandford-H.pngBlandford-No1467.png
Win
G: ここでは白のPをf6まで進め、白Rはa2に引いてある。作意は1.Ra7 Kd8 2.f7 Rf8なのだが、白は1.f7 Rd(fh)8 2.Ra8+と指しても勝ててしまうので、この配置では余詰が発生してしまう。もし白のKが最初はh列にあるのなら、1.f7? Rh8+ 2.K- Kd7となるから白は勝てない。c4の黒Pを一つ後ろに下げておけば、白Kのh列への移動は簡単にできる。それが次の図である。

H: 作意手順は1.Ra7 Kd8 2.f7 Rf8 3.Kg2 c4 4.Kf3 c3 5.Kxe3 e4 6.Rb7 Kc8 7.Re7 Kd8 8.Ra7で白勝ち。ここでもう一声、白のRのRb7-e7-a7というさばきを反復させることはできないだろうか?実はこれは初形位置においてc6に黒Pを追加するだけで簡単にできる。

これでゴールに到達。No.1467の作品ができた。作意は1.Ra7 Kd8 2.f7 Rf8 3.Kg2 c4 4.Kf3 c3 5.Kxe3 e4 6.Rb7 Kc8 7.Re7 Kd8 8.Ra7 c5 9.Rb7 Kc8 10.Re7 Kd8 11.Ra7 c4 12.Rb7 Kc8 13.Re7 Kd8 14.Ra7で、黒が結局ツークツワンクに陥って白の勝ちとなる。

この完成版だが、指摘しておかなければならないことが2点ある。まず黒のダブルポーンのペアが2つもあることは、配置の自然さを若干損ねている。また、白の2手目と3手目は交換可能である。これはそれほど重大な欠陥ではないだろう。

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