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アムランの新盤

ピアノマニアで作るメーリングリストからうれしいニュースが入ってきた。ついにMarc-André Hamelinが弾くJ. Strauss=GodowskyのCDがこの夏に発売されるらしい。アムランによる「芸術家の生涯」のライブ録音は昔聴いたことがあったが、彼の演奏による交響的変容三部作すべての録音が世に出るのは今回が初めてである。これは是が非でも買わなければいけない。

ゴドフスキーというと好き嫌いの分かれるショパンエチュードの編曲がまず思い浮かぶかもしれないが、文句なしに楽しめるのは何といってもこの「交響的変容」三部作であろう(実際には四部作だが、4番目の作品は左手一本のために書かれたもの)。ヨハン・シュトラウスII世の有名なワルツの旋律が縦横無尽に駆け回り、絡み合い、響き合って豪華絢爛な音の空間をつくり出す。元になっているのはワルツ「芸術家の生涯」、喜歌劇「こうもり」、ワルツ「酒・女・歌」の3曲。どれも演奏は超絶的に困難であり、特に1曲目の「『芸術家の生涯』の主題による交響的変容」の難しさは筆舌に尽くしがたい。あとの2曲は若かりしころに自分も挑戦したことがあるが、当然ながらまるで歯が立たなかった。こういう曲は中途半端な腕の人間が弾くべきではない。曲を知っている人には聴いていてもどかしいだけだし、知らない人にはただ難しくしただけの曲と誤解されかねないからだ。いくつもの旋律が絶妙に調和し「交響的に」流れる、その心地よさこそがゴドフスキーの真骨頂であり、聴く人がそれを堪能できるためには技術的な困難などものともしないヴィルトゥオジティが必要なのである。その意味で、アムランほどうってつけのピアニストはいないだろう。

もう10年以上前のことになってしまったが、当時まだ日本ではほとんど知られていなかったアムランを招聘したときのことを思い出す。動いたのはピアノサークルの先輩たちだったが、私も下っ端として招聘メンバーの一員に加えさせてもらっていた。十人くらいで成田空港に行って彼を出迎えた後、成田エクスプレスで新宿に移動し、どこかのレストランに入ったのだが、私は緊張もあってそこまでほとんど言葉を交わしていなかった。私は下っ端だし、他のメンバーに比べればピアノについては無知だし、まあ隅っこでおとなしくしていよう。そう思っていたら、招聘メンバー代表のKさんが
「ほれ、斎藤君、カンバセーションインフレンチ、せんの?」
といきなり水を向けてきたのである(アムランはカナダ人なのでフランス語も達者なのだ)。突然言われてどぎまぎしながらも、そのときこわばった顔でアムランにした質問が
「えーと、ゴ、ゴドフスキーの『変容』4部作を録音されるつもりはないんですか?」
だった。もちろんすらすらそんなことが言えるわけはなく、前日に仏作文してこしらえておいたたった1つの質問がそれだったのだ。そのときのアムランの答えの第一声が
"J'aimerais bien."
だったことはよく覚えている。それに続けて、今はいろいろ事情があってちょっとできそうにはないんだけど、というようなことを言っていたと思うが、彼も録音する気はあるんだなとそのときから密かに期待して待っていたのだった。あれから10年、やっと出るのかと思うと、何とも感慨深い。

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コメント

それはぜひ買わないといかん!

他にも買わんといかんCDが結構たまっているんですよねえ。

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