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Gorilla Observation Test

「ミスディレクション」という言葉について、しばしば次のような説明がなされる:「ミスディレクションとは、観客に見られては困る場所、つまり秘密の動作を行っている場所から観客の視線をそらすためのテクニックで、例えばマジシャンが右手を前に突き出すことによって観客をその手に注目させ、そのスキに秘密の動作をこっそりと左手で行ったりするような行為のことである」。これを真に受けた人がマジックを見て、「手品師が右手に注目させようとするから、だまされまいと思ってずっと左手ばかり凝視していたけど、結局何もしていなかった」と言ったりする。それはある意味では当然のことだ。ミスディレクションとは、実際には上の説明のようなものではないからである。そらすのは観客の視線ではなく、あくまで観客の心なのだ。視線がそれることは心がそらされたことの結果に過ぎず、いくらちゃんと見ようとしても心をそらされていたら、何も見ていないのと同じなのである。

イギリスで現在活躍しているマジシャンの一人にDerren Brownという人がいる。「メンタリスト」の肩書きを名乗る彼は、人間の思い込みや先入観、心理状態を手玉に取ったトリックを駆使して、マジックに限らない様々な芸を披露している。そのDerren Brownがショーの中で行った面白い出し物の映像を見つけた。彼はこれから注意力のテストをするといい、ポケットから取り出したバナナをステージの隅に置いて、これからショーの間にゴリラの着ぐるみを着た男がどこかのタイミングでバナナをこっそり取ると宣言する。ショーがしばらく進んだところで、DBが注意をステージの端に向けると、いつの間にかバナナは消えている。ゴリラを見逃した人のためにもう一度チャンスをあげましょうといって彼はバナナをまた台の上に置くのだが……。実際のショーはずっと長いが、動画ではこのゴリラテストに関する部分だけが抽出されている。この動画はミスディレクションの何たるかをよく表しているように思う。

同じマジックは二度繰り返して演じてはいけないとされているが、その理由もこの動画は端的に示しているといえる。この動画をもう一度見直せば、実際にステージで何が起こっていたかはすぐに分かる。もう2回目にはミスディレクションは存在し得ないからだ。しかし初めて見たときに事態を正しく認識できる人はほとんどいないだろう。そういえば以前、私がマジックの真似事をすると知った人から「じゃあそのうちブログにマジックをしているところの動画をアップしてほしい」と言われたことがあるが、それができないのも同じ理由によるものだ。その場で一度しかやらないからこそ、マジックはマジックたり得るのである。

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コメント

へえ~なるほど、そうなんです
ね。二度見るとバレてしまうもんなんですね。

先日テレビでマジックショーを見ていたら。T大の王子が出ていましたよ。

ばれるかどうかは分かりませんけど、一般論として同じネタを何度も見せるのは
マジックの味が多分に失われるきらいがある、ということですね。

T大生にもうまい人がたくさんいそうですね。

一回見ただけで分かっちゃっいました。

そういえば、駒場祭でトランプの手品を見ました。学生の手品師さんはやはり「皆さんの視線をこの手に集中させている間に、もう片方の手で ...」のようなことを言ってました。内容としてはトランプのキング達を見せ、裏返し、束に組み込み、束を分割し、めくっていきます。「キング達がいなくなりました。そして(別のところをめくり)いつのまにこんなところに!驚いた方は拍手して下さい!」。私には不思議ではなかった(私の勘違いでなければ、あからさまだった)のですが、私以外の数人は皆拍手したので、そっちの方が驚きでした。ガッカリしたのでもうそれ以上は見ませんでした。そういう意味では、分からない方がきっと面白かった(幸せだった)と思います。

すみません、コメントに気づくのが遅れました。
「一回見ただけで分かった」とのことですが、それは私が事前に私がミスディレクション云々と
書いたからではないでしょうか。そういうことがこれから起こるのだ、
と思って見るだけでもうモノの見方は違うものです。

手品を見たがタネが分かってがっかりした、というのは確かに面白くないでしょうね。
私にとってはタネが分かる、分からないなどということとマジックの面白さはあまり関係がないです。

短く編集されているので(関係ない部分は削除)1回で分かったのだと思います。現場にいたら気付いたかどうか疑問です。

> 私にとってはタネが分かる、分からないなどということとマジックの面白さはあまり関係がないです。

私は自分ではできないので観客としての視点からしか見ていないからだと思います。

> 私は自分ではできないので観客としての視点からしか見ていないからだと思います。

そうですね、視点の違いというのはあるかもしれませんね。
タネが分かったときでも、錯視図形のように、「それが起きていないということを理解したうえで、
一見あたかも起きているように見えるということを楽しむ」という立場もあるかなと思っています。
まあ芸の上手下手にもある程度左右されますから、
その駒場祭の学生さんについては何ともいえませんけどね。

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